相続放棄という言葉の落とし穴

相続に関する相談の中でもよくあるのが、

「相続放棄をしたいのですが…。」

という第一声から始まるご相談です。

しかし、このような相談のほとんどは「相続放棄」をすることはありません

以下のような記事が週刊誌やネット記事が良くあります。

例えば、上記の長嶋一茂氏や記事上の「遺産の放棄」は、

法律的な「相続の放棄」とは全くの別モノです。

そして、長嶋一茂氏のような勘違いを多くの方がしています。

生前に相続放棄はできません!

まず、上記の記事の相続放棄はドコが間違っているのかですが、

私が記事を書いている2021年7月現在においても長嶋一茂氏の父親である

長嶋茂雄氏はご存命だからです。(テレビで聖火点灯をしてらっしゃいます。)

そして民法上で定められている相続の放棄とは

第915条
相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。但書以下省略
第938条
相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。

上記のような条文に定められています。

ちょっと難しいので要約及び長嶋家に合わせますと

一茂氏は、長嶋茂雄氏が亡くなったのを知ってから3カ月以内に、相続放棄を家庭裁判所に申述しなければならない。

ということになります。

よって、

①まだ亡くなっていないうちに、要らないといっても相続放棄ではない。

仮に公の場で言ったとしても、堂々と相続人として権利を主張できます。

世間やほかの家族から白い目で見られるでしょうが、変わらず相続できます。

②亡くなった後でも、家庭裁判所に行って手続きを取らなければ、相続放棄ではない。

口で「要らない!」と言おうが変わらず相続人です。

①②の手続きで相続放棄が完了していると勘違いしている方が相談でもほとんどです。

なぜ相続放棄はこんな手続きが必要なのか?

ここまで読んでくださった皆様の中には、

なんで財産を要らないってだけなのに、こんなめんどくさい手続きがいるの?

と感じる方も多くいらっしゃると思います。

その疑問に対する解決のポイントは、そもそも「相続」って何?という点です。

第882条
相続は、死亡によって開始する。
第896条
相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。但書以下省略

この条文は、相続のスタートと効果が書かれている条文です。

が、一見するとやっぱりよくわかりません。

ユルめ言葉に言い換えると、

相続人(財産を引き継ぐ人)が、亡くなった人のプラスの財産(現金や不動産)

だけでなく

マイナスの財産(借金など)も含めた一切のものを引き継ぐこと。

この効果は、人間の意思とは関係なく、人が死ぬことで勝手に生じる。

というような内容になります。

つまり、相続を放棄するというのは、この原則を捻じ曲げることだから、

家庭裁判所の手続きであったり、3か月という短い期間しか許されないのです。

また、効果としても非常に強力です。

具体的に考えると、皆さんがお金を貸したときに、貸した相手が亡くなって、

相続により引き継がれなかった場合、お金は回収は不可能になります。

よって、放棄が簡単にかつ何年経っても出来てしまうと、

誰も安心して、お金を貸したり、モノを売ったり買ったり取引が出来なくなります。

だから、皆さんが思うように簡単には相続放棄はできないのです。

じゃぁ、要らないときはどうすればいいの?

では、3か月以上経った後相続放棄はできないのか?

答えとしては、可能性は無くは無いが、具体的事情によります。

不可能ではないけれど、家庭裁判所が認めるような事情がないと無理という感じです。

このような事情の場合には、司法書士などの専門家に依頼することを強くお勧めします。

一度試しに自分でやってみようと思う方もいらっしゃるかもしれませんが、

ダメだった場合は、再度相続放棄が認められることはありません。

キチンと専門家と相談しながら、上申書を作成し可能性にかけるべきです。

亡くなる前の早い段階から専門家に相談を

以上、相続放棄についてさわりだけ説明いたしました。

しかし、この他にも書ききれない沢山の気を付けるべき点があります。

また、自己流や自称法律に詳しい人からの助言、インターネットの知識の聞きかじりでの

相続対策や相続手続きは後々取り返しのつかないことも非常に多いです。

仮に取り返すことが出来る失敗だとしても、

高額な費用が掛かるので諦めることも多いです。

なぜなら、中心人物が死んでいるからです。

生きていれば、再度やり直したりできます。

けれども、相続の問題が発生するのは亡くなった後がほとんどです。

当たり前のことのようですが、見落としがちなことです。

時間が経ち、死が近づくにつれ、選択肢は狭まります。

この文章を読んで、少しでも不安を感じた方は、

当事務所にご相談ください。

お待ちしております。